幼馴染みの為の恋愛手引き
「レベッカって、ウィルとは恋人同士なの？」
オスティア郊外で、束の間の休息の最中に花冠を編んでいたニノが、そうレベッカに質問してきた。唐突に聞いて来るものだから、レベッカは思わず「えっ･･････」と素っ頓狂な声を上げて、持っていた花の束を落として地面に散らばせてしまう。
「そ、それってどういう事･･････」
言いながら、レベッカは落ちてしまった花を慌てて拾おうとするが、動揺しているのか上手く指が動かず、摘んだその先からはらはらと零れ落ちて行った。
「いや、二人共仲が良いなあって思って。いつも一緒にいるから気になってたんだ。違うの？」
ニノは作業を中断して、レベッカの落とした花を一緒になって拾う。花を一つ一つ手渡すニノの目は、まだ経験した事の無い恋沙汰に希望を抱く年頃の少女の様に、きらきらと輝いていた。
「うーん、確かによく傍にはいるけど」
貰った花を優しく握り締めたまま、レベッカは呟く。
「でもそれって、私達が幼馴染だからかもしれないし」
期待通りの返答が出来ず申し訳無いと思いながら、レベッカは俯き加減に溜息を小さく吐いた。ニノは残念そうに「そっかあ」と呟くと、そのまま自分が作りかけていた花冠を編む作業に戻る。
「ごめんね、変な事聞いちゃって」
「ううん、全然気にしてないよ。それよりも、早く作らないと」
「うん、そうだね。今日は首飾りも作るって決めてたし、急がないと時間が無くなっちゃう」
レベッカも自分の持っていた花束を丁寧に選り分けると、ニノと同じように冠を編み始める。
(恋人同士･･････か)
編みながら、レベッカの脳裏にはニノが聞いてきた言葉が浮かんでいた。全部の作業が終わるまで、その言葉はずっと焼き付いて離れなかった。
夜になり、それぞれがそれぞれの部屋へ戻って行く。レベッカもニノと別れ、今は宛がわれた自分の部屋で、昼間木の枝に引っ掛けて破れてしまった衣服を縫っていた。布に針を通す最中、やたらニノの言葉が思い出されて、レベッカはふと自分の気持ちを考えてみた。
(私ってウィルの事、どう思ってるんだろう)
五年という、レベッカにとって決して短くは無かった期間を経て、お互いは偶然にも再会する事が出来た。最初は、すっかり成長したウィルの姿に距離を感じる事はあったが、その寂しさをぶつける事で、ウィルはその隙間を埋めようと、一生懸命自分に対して時間を割いてくれるようになった。ウィルにとっては、何も告げずに出て行ってしまった事と、長い間レベッカを一人にさせてしまって申し訳無い、という気持ちが先行していたかもしれない。それでも、一緒にいてくれる時間があるという事が、レベッカにとっては何よりも嬉しかった。
(嬉しいって事は、やっぱり好きなのかな･･････)
ふと針を縫う手を止めて、レベッカは考えを巡らせた。
(ウィルは私の事、どう思ってるんだろう)
それと同時に、恋人とはどういう関係のものなのか、という事も。
相手の事を考える時間が長いという事なのか。
いつも一緒にいる機会が多いという事なのか。
お互いに「好き」と言い合える事なのか。
それとも、もっと行為的な手順を踏んで行く事なのか
──
考えれば考える程、胸の奥がざわめくような感覚に陥る。その感覚は決して不快なものでは無く、寧ろ期待に満ち溢れた何かがレベッカの身を支配していった。
──
いけない、まだ作業の途中なのに考え事など。
レベッカはふるふると首を弱く横に振ると、まだ縫い繕っている途中の衣服に刺したままの針を抜いて、破れてしまった布を繋ぎ合わせる為に糸を通そうとした。
と、その時。外から聞こえて来る物音に、レベッカは息を呑んだ。始めは遠くにあったその音は、規則的な拍を刻んで徐々に近付いて来る。誰かがこちら側へ歩いて来ているようだ。そして、その足音にレベッカは聞き覚えがあった。
足音は自分の部屋の近くまで来て、聞こえなくなった。察して、レベッカは椅子から立ち上がると扉の方へ歩を進める。
「どうぞ、入って良いよ」
レベッカはそう言うと、ドアノブを握って自分の方へ引いてやる。しかし、相手も同じタイミングで押そうとした為か、扉には思いの外勢いが付いて、そのまま向こう側にいた人影が傾れ込むようにして、部屋の中へ入って来た。
「おい、レベッカ、待って･･････」
「･･････！！」
レベッカの目に飛び込んで来たのは、扉が開いた勢いで床に倒れ込むウィルの姿。一瞬の事で、何が起こったか分からなかったレベッカは、口をぽかんと開けてその様子をぼんやりと眺めていた。
「レベッカ、開けてくれるなら最初からそうと･･････」
強打した場所でもあるのか、その痛みに顔を歪めて、倒れた体勢のままウィルはそう呟いた。その姿が何だか滑稽に見えてしまい、思わずレベッカはウィルには悪いと思いつつ、くすくす笑い出してしまう。
「･･････何も笑う事無いじゃないか」
「ごめん、だって可笑しいんだもん」
レベッカの目に、ばつの悪そうな表情のウィルが映り込んだ。
「はい、これで良いよ」
ウィルの顔に付いてしまった汚れを、水に浸した布で綺麗に拭き取ってから、満足そうにレベッカは言った。とんだ災難だったよ、ウィルがそう答えると、レベッカは、そうね、と笑いながら言葉を返した。
「頼まれたもの、これで良かったか？」
ウィルが、持って来ていた袋を机の上に置く。中を開けると、銀製の鏃が幾つも纏まって入っていた。オスティアの城下町に出掛けると聞いて、レベッカがウィルに予め頼んでおいたものだった。
「ありがとう、助かったわ」
中身を確認して、レベッカは貰った袋を自分の道具入れに仕舞い込む。
「それで、幾ら掛かったの？」
代金はまだ渡していなかったので、レベッカは小銭袋を取り出して、ウィルに手渡そうとする。
「ん? あぁ、良いよ。払わなくて」
レベッカが小銭袋から金貨を出そうとするので、ウィルは袋ごとレベッカの手を握って、その行動を阻む。
「え、それって･･････」
握られた手を離そうと、レベッカは一生懸命に抵抗するが、力の差は歴然としていて、微動だにしなかった。
「折角代わりに買いに行ってくれたのに、そんなの悪いわ」
「いつも迷惑掛けてるんだから、たまには良いだろ？」
「でも･･････」
レベッカは困惑した表情でウィルを見つめる。対するウィルは、年上の奴の言う事は聞いとけ、と言わんばかりに首を縦にうんうんと振った。この様子だと、恐らくウィルは最初から自分が払うつもりで、レベッカの頼みを聞いていたのかもしれない。ならば、このまま拒否しても、堂々廻りになるだけで埒が明かない。思い直し、レベッカは、ありがとう、と呟いてそっと腕を引っ込めた。
「その代わりと言っちゃ何だけど･･････」
今度は逆に、ウィルが申し訳無さそうな顔をする。
「ちょっと借りるよ」
「え･･････？」
そう言うと、ウィルは部屋にあった寝台の方へ歩いて、その上に身を投げる。予想外の行動の素早さに、レベッカは暫し呆気に取られていたが、すぐに事態を察すると、慌ててウィルの方へ向かって行った。
「な･･････何するのよ、いきなり！！」
身を横にしてリネンの感触を楽しむ状態のウィルに、レベッカは思わず叫んで聞いていた。
「ごめん、今日散々連れ廻されて･･････」
疲れちゃったよ、そう言ってウィルは体を大の字に広げて、すっかり寛いだ様子を見せる。
「セインさんがやたら絡むもんだから」
言われてレベッカは、ああ、と思い出した。ウィルはケントとセインの両名と共に、軍の買出し担当に回っていた。しかし、元々女好きで有名なセインの事なので、買い物の最中もやたら女性にアプローチを掛けていたに違いない。それを、同伴していたケントと共に、あの手この手を尽くして阻止しようとしたのだろう。セイン本人はともかく、付き合わされた方は堪ったものでは無い。ウィルが休みたがるのも無理はなかった。
レベッカは仕方ないなと、ふっと小さく溜め息を吐くと
「ちょっとだけだからね」
そう言って、まだ持ったままだった小銭袋を机の中に仕舞い込もうとする。
「･･････隣、来るか？」
不意にそう言われて、吃驚したレベッカは袋を落としてしまった。乾いた金属音が幾重にも重なって、部屋中に木霊する。慌てて袋を拾うと、レベッカは怪訝そうにウィルを見つめた。
「今、何て･･････」
「いや、だから隣に来ないかって」
ウィルは体の位置を横にずらすと、そこに出来た空間をぽんぽんと叩いて、レベッカを招き入れようとする。
「何でそんなまた急に･･････」
その行動に、レベッカはウィルの真意が掴めなかった。大体、年頃の男女が一つの寝台で一緒に寝るというのは如何なものか。
「たまには昔みたいにするのも良いかな、って思ったんだけど」
「昔みたいにって、昔だから出来たんでしょう！！ それに、今はちょっともう･･････」
成程、ウィルにしてみれば昔の思い出を自分と共有したいらしい。確かに幼い頃は互いの家を行き来して、一緒の場所で寝る事もあった。しかし、それはまだ純粋な子供だったから出来た事であり、成長してしまった今は、流石に一緒に横になるという事には、かなりの抵抗があった。
──
ああ、この人はどうしてこう何も分からないのか。
思った事を口にしようとした矢先、ウィルが先に口を挟んだ。
「もしかして、嫌か？」
「えっ･･････」
急に真剣な眼差しでウィルが聞いてくるので、レベッカは言おうとした事を慌てて喉の奥へと仕舞い込んだ。
「一緒に寝るの、嫌か？」
見つめられて、レベッカはどきりと胸を震わせる。強い視線に思わず捕らえられてしまったのか、その口からは、次の言葉を紡ぐ事が出来なかった。
「レベッカ」
ウィルが体を起こして、ずいと身を乗り出すような格好でレベッカの返答を待っている。先程までの態度とは全く違うウィルの姿に思考が追い付かず、レベッカはますます困惑した。
(ど、どうしよう･･････)
どきまぎしながら、レベッカは考えを巡らす。
何故自分はこうも混乱しているのだろう。まさかこの人はわざと自分を困らせるような事を言って、その反応を楽しんでいるのでは無かろうか。それとも単に何も考えず、思った事をそのまま口にしただけなのか。いずれにしても、この人の所為で自分が振り回されているのだ、という事だけは何とか認識出来た。
「嫌じゃ･･････無い」
自分のじれったさに限界が来て、レベッカの口が無意識に開いた。言ってから、自分で自分の言葉に吃驚してレベッカは目を丸くする。その言葉の意味を理解するのに若干の時間を要したが、分かってからレベッカは、しまった、と内心思った。
「何だ、だったら最初からそう言えよ」
ウィルが安堵した様子で、ほっと溜息を吐く。
「ほら、おいで」
そう言うと、ウィルはレベッカに向かって手を差し出した。否定してしまった以上、その手を拒む言い訳が無くなり、逃げ場を失ったレベッカは、渋々その手を取る。どこか嬉しそうな表情のウィルを見て、この人は狡い、とレベッカは心の底から思った。
靴を脱いで寝台に上がると、二人分の体重を支える木の枠組みが、掠れた音を部屋中に響かせた。ウィルが体をずらして、レベッカが入れるだけの空間を作ると、レベッカもウィルに導かれるように、体を横にしてお互いに並んで寝転がるような形を作る。風邪を引いたら大変だから、とレベッカは足元に畳んであったブランケットを広げて、二人の上にそっと掛けると、ウィルは、ありがとう、と小さく呟いてレベッカの頭を二・三度優しく撫でた。子ども扱いされたと思い、レベッカは一瞬むっとした表情を見せるが、優しい眼差しで自分を見遣るウィルを見てしまうと、何故か声を上げて怒る事は出来なかった。
「不思議な感じ･･････」
枕に顔を埋めて、レベッカはそう言葉を紡ぐ。
「不思議って？」
「またこんな風に、一緒に寝るなんて思っても無かったから」
「そっか。でも、悪く無いだろ？」
「･･････うん」
(でも、これって)
体重をスプリングに預けたまま、今一度冷静になって自分達の関係をレベッカは考えてみる。普通の人間は、この状況を見たらどう思うだろうか。一緒にいる時間は恐らく他の人よりずっと多いだろうし、お互いの部屋には何度も行き来を繰り返しているし、ましてや今は至近距離で寝転がっている。
それを男女間の友情として捉えるには、余りにも行き過ぎでは無いだろうか。それとも、幼馴染という事がその境界線を消してしまっているのか。どちらにせよ、お互いの関係が一定の状態以上に進んでいる事は確かなのだと、レベッカはぼんやりと理解していた。
「何か恋人同士みたい、私達」
微かに聞き取れる程度の声量で、レベッカはそう呟く。が、自分では頭の中で思っているだけで、声に出した自覚は無かったのか、言ってからはたと気付いた。
「ん、何か言った？」
レベッカの言葉が上手く聞き取れなかったのか、ウィルが言った。怪訝そうな表情で見つめられて、レベッカの胸が高鳴る。今の発言を聞いたら、ウィルはどう思うのか。内心焦って、レベッカは自分が言ってしまった事を慌てて否定しようとする。
「う、ううん。何でも無いの」
「本当に？」
「ほ、本当に何でも無いから･･････」
「じゃあ何でそんなに慌ててるんだよ」
「それは･･････」
言われて、レベッカは二の句が継げなくなる。落ち着きの無い自分を見れば、ウィルが不審がるのも当然であろう。自分で言って招いた事態なのに、何故こうも焦ってしまうのか。何を期待して、自分は今の発言をしたのか。様々な感情が綯い交ぜになって、レベッカの頭の中は益々混乱した。同時に、こんな状態ではまともに会話が出来ないでは無いか、とも。
「ごめん、私ちょっと頭を冷やして来るから･･････」
咄嗟にそう言って、レベッカはブランケットの隙間から抜け出して、外へ出ようとする。
しかし、急に強い力で体ごと後ろへ引っ張られて、その行動は阻まれてしまった。背中に何かを打ち付ける感触に、レベッカは顔を顰める。
「待てよ、レベッカ」
同時に耳元に飛び込んで来るウィルの低い声。その距離の近さから、レベッカは自分が後ろから抱き竦められているのだと気付いて、心臓が飛び上がりそうになる。
「は、離してよ･･････」
レベッカは身を捩って、ウィルの体から抜け出そうとするが、しっかりと締め付ける腕の力がそうはさせなかった。
「離したら逃げるじゃないか」
「そんな事･･････」
「だったら、外に出る必要なんか無いだろ？」
自分を拘束する力が強くなって、レベッカは苦しそうに溜息を洩らす。
何故ウィルはこうも自分の言葉に執着して来るのだろうか。いつもの自分なら、こういう時にはもっと抵抗しているべきなのに、体が思うように動かない。苦しい筈の束縛は、同時に心地の良い刺激へと変化して、胸の奥からレベッカの全身に熱い流れをもたらす。今までに経験した事の無い状態に、レベッカは恐怖とも歓喜とも取れる感情を覚えた。
「･･････嫌」
「嫌、じゃない」
必死になって、やっとの思いで出した懇願の言葉をウィルはきっぱりと拒否した。低く擦れた声がレベッカの耳元を掠めて、背筋をぞくりと震わせる。その感覚に耐え切れず、レベッカは目をぎゅっと瞑って羞恥から逃れようとしたが、視界に何も入らなくなる事でより過敏になった感覚は、じわじわとレベッカの感情を揺さ振った。
「･･････恋人って聞こえたんだけど」
「えっ･･････！？」
言われて、レベッカは思わずウィルの方を振り向いて見つめる。その瞳には、呆れとも苛立ちにも似た表情のウィルが映り込んだ。
「恋人みたいって、言ったんだろ？」
「えっと、そ、それは……」
「聞いててやるから、落ち着いて話してみろよ。言ったのか、言ってないのか。どっちなんだ？」
「･･････」
何だ、聞こえてたんじゃないの。レベッカは視線を逸らすと、ばつが悪そうに目を伏し目がちにした。誘導尋問されて、自らの過ちを告白する罪人の気持ちとは、このようなものなのだろうか。
「･･････言ったわよ」
「ん、そっか」
レベッカの返答を聞くと、ウィルはあっさり廻していた腕を解く。その態度の落差に、レベッカは思わずウィルの方に向き直って叫んでいた。
「ちょっと･･････、何なのよ一体！！」
「いや、聞き違えて無かったから良かった、って思って」
「そうじゃなくて･･････」
ウィルはレベッカの気持ちなど何処吹く風、といった感じで、何も気にしている様子は無かった。散々人を振り回しておいて、その態度。一人慌てていた自分が惨めになって、レベッカは泣いてしまいたい程に恥ずかしかった。
「恋人かあ･･････」
思う事があるのか、ウィルが小さな声で呟く。
「･･････ウィルはどう思ってるの」
「え、何が？」
「私達の関係の事･･････」
ウィルの態度が気になって、レベッカは半ば自棄になって聞く。羞恥は収まらないが、何も言わないよりは気分が紛れる、そう思っての事だった。ウィルは体の向きを仰向けに変えて、天井を見つめながら、レベッカの質問の答えを考える。
「んー、周りの人からは結構色々言われるんだよなあ」
「何て？」
「いや、二人共仲が良いね、とか、もう出来てるんだろ？ とか」
「そう･･････」
「普通の人からすれば、そう見えるって事なんだろ」
言って、まぁ、でも、とウィルは視線をレベッカの方に向ける。じっと覗き込んで来るその瞳に、レベッカの胸は再び大きく揺れ動いた。
「少なくとも、おれがレベッカ以外の人を好きになるなんて、考えた事も無いけど」
ウィルの言葉に、レベッカはきょとんとした顔をする。
「ウィル、それって」
思わず身を乗り出して、レベッカはウィルに顔を近付ける。何かを察したかのように、真剣な眼差しで見つめるレベッカに対して、ウィルはレベッカの考えている通りだ、と言わんばかりに大きく頷いた。その言葉の真意が脳に伝わるまで、若干の時間を要したが、全てを理解した瞬間、レベッカの頬が見る見るうちに紅く染まっていった。
「･･････レベッカは？」
「え･･････何？」
「レベッカはどう思ってるの」
逆に今度は自分が聞かれて、レベッカはどきりとする。しかし、すぐにその答えを見出すと、レベッカはうんうんと頷いて、その意思をウィルに見せた。
「私も、ウィル以外の人と一緒にいるのは考えられない･･････かな」
「そっか、･･････ありがとう」
思ったよりあっさりと言葉に出来た事に、内心レベッカは驚いていたが、恐らく自分の中で結論はとっくに出ていたのだろう。言葉にしてそれが明確になった事で、レベッカは次第に充足感が体中を満たして行くのを感じた。
「だったら、もう恋人同士って事で良いんじゃないか、おれ達」
そう言って嬉しそうに笑うウィルにつられて、レベッカも、そうね、顔を綻ばせた。ウィルがそっと腕をレベッカの方へ伸ばして来るので、レベッカもそのまま導かれるように、体をウィルの腕の中へ収める。
「それじゃ改めて宜しく、レベッカ」
「こちらこそ宜しくね、ウィル」
レベッカの背中に廻された腕の力が、ぎゅっと強くなる。抱き締められる事に、レベッカはまだ多少の気恥ずかしさはあったが、肌を通って伝わって来るウィルの体温の心地良さと、お互いの気持ちが通じ合った事が、何よりも幸せだった。
その後も二人はずっと、並んで寝た状態のまま他愛の無い話を続けた。それはいつもと変わらない、日常的な行為だったが、違ったのはお互いの存在がより確実に大きくなった、という事だった。
「それじゃ、また明日な」
「うん、また明日」
自分の部屋に戻るウィルを、レベッカは戸口に立って見送る。辺りはすっかり深い闇に覆われ、最低限の視界を確保出来る程度のカンテラの明かりが、微かに認識出来るだけだった。
「今更どうこうっていう訳じゃないけど･･････ゆっくり、良い関係を築いて行けたら良いな」
ウィルの言葉に、レベッカは小さくこくりと頷いた。レベッカの気持ちも、ウィルと同じものだった。
「レベッカ」
不意に名前を呼ばれて、レベッカは声の聞こえた方向に顔を上げる。目の前に映ったのは、真剣な表情で自分を見つめるウィル。どうしたのか、と思っていると視界が急に暗くなって、思わず反射的に目を閉じると、僅かな時間だが唇の上に温かい感触が舞い降りたのを感じた。突然の事に吃驚したレベッカが、ぱっと目を見開くと、暗くて良くは分からなかったが、照れ臭そうにするウィルが自分の顔から離れるのが見て取れた。
「･･････おやすみ」
「お、おやすみなさい･･････」
半ば早足でウィルが部屋へ戻ろうとするので、レベッカも慌てて視線でウィルを追う。次第に遠ざかって行くその姿に、レベッカは何度も手を振って見送った。それに気付いたウィルも、お互いの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれた。
すっかり見送ってから、レベッカはそっと指で唇に触れてみると、温かい熱がじわじわと発せられて、レベッカの体へと流れて行く。それと同時に、唇が重なった時の瞬間が鮮明に浮かび上がって、耐えられなくなったレベッカは、思わず目をぎゅっと瞑った。思い出すだけでも恥ずかしいのに、体中を駆け巡る熱は当分収まりそうにも無い。それなのに、その熱は何よりも愛おしいものに感じて。
落ち着かない状態で立ち尽くしたまま、レベッカは明日ニノにどう話そうか、説明した後何と言われるだろうか、余計な噂が周りに広がるんじゃないだろうか、そんな事ばかり考えていた。
今夜はきっと、眠れそうにも無かった。
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ウィルは何か考えているようで、実は何も考えていなかったのです(何だそれ)
とりあえず、ウィルに翻弄されるレベッカと、レベッカにアレするウィルが書けたので個人的には大満足
(2010/05/25)